エレベーターで蚊と乗り合わせた。目的の階までは数分、人間は一人、相手も一匹。
ヒョロヒョロとホバリングしながら、肌が露出した部分に取りつこうと狙っている。こちらは両手に荷物を抱えるハンデをものともせず、近寄らせまいと手で空を払う。血を餌にして向こうが止まった瞬間に叩き潰してもよかったんだけど、無用な殺生はやめておいた。ごくわずかな血を惜しんだのでなく、あとの痒さを避けたかった。
警戒しながらエレベーターを降りたら敵もふわふわとついてきたけど(風なり匂いを感じるのだろうか)、角を曲がったところでこちらを見失ったらしい。見失ったのは私の方かもしれない。あるいは彼女(血を吸うのは雌だけだそうだ)を囮にして別の個体が張り付いてたのだったりして。
とりあえず難は逃れた様子。蚊に食われた痒みは時間をおいて出たりするので、まだ油断はできないけども。